【雪山テント泊】幕営適地の見つけ方と注意点の紹介

夏山では、緊急時を除いて指定された場所以外にはテントを張ってはいけません。地面に直にテントを張ってしまうと、その場所には草木や高山植物が数年の間生えなくなってしまうためです。いわゆる「植生を痛めてしまう」ためです。一方、雪山では雪がクッションの役割を果たすため、賛否両論はありますが自由に幕営できるとされています。この分、雪山では幕営の自由度が広がり、以下の点でメリットがあります。

雪山テント泊のメリット
・幕営地が存在せず、日帰りせざるを得なかった山に一泊二日で余裕を持って登ることができる
・景色の良い場所に幕営でき、朝日、日の出、夜景を楽しめる

そうはいっても、「自由に幕営していい」といきなり言われても困りますよね。そこで、今回の記事では雪山での幕営地の見つけ方をご紹介します。

注意点
本時期の対象者は、すでに営業小屋で何度か雪山テント泊をしたことがある人です。雪山テント泊経験のない方が、いきなり本記事の内容を実践しないようにお願いします。雪山で防寒着やガスバーナーを忘れたり、シュラフを水浸しにした場合、暖を取れなくなり助けてくれる人もいません。冗談抜きで遭難します。また、本記事を元に生じたいかなる被害についても、当ブログでは責任を負いかねますので、あくまでも自己責任にてお願いをいたします。

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方法1.書籍に頼る

山と渓谷社「雪山登山ルート集」(西田省三著)や、山と渓谷社「雪山登山」(野村仁著)には、雪山における幕営適地が記されています。筆者は何度もこれらの本にお世話になっています。この方法が最も確実です。

方法2.自分で探す

上記の本では、一部の有名な山岳しか紹介されていません。そこで、自分で幕営地を探す方法を以下に紹介します。(尚、この方法は等高線を読める人のみ実践してください。中途半端な知識で以下を実践すると、危ないです。)

まず、山に登る前に、あらかじめ山と高原地図を購入し、なるべく平らな場所(=等高線の感覚が広い場所)を数か所ピックアップしておきます。この「平らな場所」が、幕営地の候補となります。これを候補地とし、実際に山に入って幕営できるかを確かめます。この際のポイントについて、以下に記載します。

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山と高原地図(昭文社)
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風の強い日には、樹林帯内に幕営する

風の強い日や、強まる予報の日には森林限界以下の樹林帯の中に幕営しましょう。

特に厳冬期(12~2月)には強風が吹くことが多いです。森林限界より上では直に風の影響を受けるため、強風が吹くとテントが飛ばされることがあります。雪山の非指定地でテントを張っている場合、基本的に自分たちのグループ以外は誰もいません。その環境下でテントを飛ばされた場合、誰も助けてはくれません。1~3月であれば、気温は-10℃を下回るでしょう。テントを飛ばされた瞬間に遭難します。

どの地点が森林限界なのかは、山と高原地図に書いてある場合があります。書いていない場合はあらかじめヤマレコを参照して調べておくか、事前に登ってリサーチしておきましょう。

補足
・天気予報で風速が10mを下回ることが分かっている場合には、森林限界上に幕営するのも有りです。
・強風だけど、せっかく山で夜を過ごすのならば樹林に阻まれずに絶景を見たい!という場合もあるでしょう。この場合には「森林限界よりも少し手前に幕営する」のが良いです。夜中にテントを抜け出して、森林限界より上に移動して景色を眺めましょう。
・強風の日に森林限界よりも上にテントを設営する場合には、テントの周りに雪の壁を作ることで風の影響を和らげることができます。

4月上旬の白馬岳・天狗原にて。この日は白馬大池にて幕営する予定だったが、風速20mを超える強風のため樹林帯内での幕営に切り替えた。


あらかじめ候補地を下見しておく

可能であれば、事前に山と高原地図を見て、幕営できそうな箇所を複数個所選定した後に、下見をしておきましょう。

下見をするのは無雪期でも、雪山の日帰りでも良いです。下見をしておくべき理由は、 等高線が平らだったとしても、木が密集して生えていて幕営できない場合があるためです。特に雪山ではラッセルがあるとコースタイムの数倍の行動時間が掛かることがあり、これに加えて日照時間も短いため、幕営適地を探すことのできる範囲はとても狭いです。いきなり雪山テント泊をしようとして「実は幕営できなかった」となり日没を迎えた場合、それは遭難です。

下見できない場合には、少なくとも幕営候補地を事前に数か所ピックアップしておくことだけでも実施しておきましょう。山に入り幕営候補地のあたりにたどり着いたら、テントを張れるスペースが無いかを探しながら歩きましょう。 候補が多いほど、1か所くらいは幕営地があるものです。

12月中旬の巻機山・5~6合目の間にて。ラッセルが厳しくコースタイムの3倍の時間が掛かってしまい、当初予定していなかった地点での幕営となった。写真のように傾斜はなだらかでも木が密集して生えており、幕営地を探すのに1時間ほど掛かってしまった。


雪庇上には幕営しない

森林限界よりも上で幕営する場合、雪庇(せっぴ)の上にはテントを張らないようにしましょう。

雪庇は平な形状をしているので、一見幕営適地のようにも見えてしまいます。しかし、雪庇はとてももろく、しかもその下は崖となっているため、その上に人が立ち入ればあっという間に崩れて谷底に滑落してしまいます。

12月下旬の上州武尊山にて。雪庇の上は平になっているが、その下は谷底となっておりテントを張ることはできない。


鞍部には幕営しない(方が良いことが多い)

森林限界よりも上部に幕営する場合には、鞍部に幕営するのは避けた方がよいことが多いです。(鞍部=峰と峰、山と山を結ぶ稜線上で尾根が一番低くなっているところ)

理由は、森林限界より上の鞍部は風の通り道となっていることがあり、雪が風で磨かれて硬くなっていてスノーアンカーが刺さらなかったり、そもそも雪が無かったり、テントが強風にあおられる可能性があるからです。

風の穏やかな3月下旬の旭岳から、裏旭岳方面を望む。写真中央の鞍部は裏旭キャンプ指定地となっている。ところが、実際にこの指定地に行ってみるとこの地点だけ体感で風速10m以上と強風になっており、しかも雪が風で磨かれて氷になっており、まったくペグが刺さらなかった。仕方がないのでキャンプ地から離れた風の通らない場所にテントを張った。


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雪崩の通り道に幕営しない

例えどんなに平らでも、雪崩の通り道にはテントを張らないようにしましょう。

以下の条件の場所では、雪崩が通りやすいです。

雪崩の起きやすい場所
・斜度が40度を超えるような急斜面の直下
・谷状の地形の底
・雪庇の下

北の道リサーチ(外部サイト)に雪崩の起きやすい地形について詳しく解説があります。

5月上旬の妙高山にて。崖の上から人の大きさの何倍もある雪の塊が落ちてきている。もし下にテントがあって直撃を受けた場合、ひとたまりもないだろう。


下調べが命

これは言うまでもないことですが、下調べ無しで山に入ったのちにゼロから平らな場所を探しているようでは遅いです。雪山の時期は日が短く、探しているうちに日が暮れて遭難、ということにもなりかねません。

登山道を塞がないようにしよう

いうまでもないことですが、テントで登山道を塞がないようにしましょう。

方法3.ヤマレコで探す

積雪期のヤマレコの山行記録を見ると、どこで幕営したか書かれている場合があります。

ヤマレコは先人たちの知恵です。うまく活用させていただきましょう。ただし、森林限界上で幕営している場合などは、気象条件によっては同じ場所に張れないこともあります。また、人によっては雪庇上の危ない箇所に張っている場合もあります。方法2と合わせて、ヤマレコと同じ場所に幕営してもいいのか、必ず自身で判断してください。

これまでに筆者が幕営した箇所の紹介

以下に、これまで筆者が幕営した場所の写真と等高線を紹介します。等高線で赤いバツ印が付いている箇所が幕営地点です。幕営地が森林限界より上なのか、樹林帯の中なのかも合わせて紹介しています。

五竜岳・小遠見山の頂上

(写真)小遠見山 頂上
森林限界より上

(等高線)小遠見山 頂上
森林限界より上

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(写真)越後駒ケ岳
森林限界より上

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森林限界より上

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乗鞍岳

(写真)乗鞍岳
樹林帯内 森林限界直下

(等高線)乗鞍岳
樹林帯内 森林限界直下

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仙ノ倉山・シッケイノ頭

(写真1)仙ノ倉山 北尾根 全景
森林限界より上

(写真2)仙ノ倉山 北尾根 拡大
森林限界より上

(等高線)仙ノ倉山 北尾根
森林限界より上

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朝日岳~巻機山の縦走路

(写真)朝日岳~巻機山間稜線
森林限界より上
ただし、稜線より東側に張っているため、西側からの風は稜線が防いでくれた

(等高線)朝日岳~巻機山間稜線
森林限界より上
ただし、稜線より東側に張っているため、西側からの風は稜線が防いでくれた

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日光白根山・前白根山

(写真)日光白根山
森林限界直下

(等高線)日光白根山
森林限界直下

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白馬岳・双子尾根

(写真)白馬岳 双子尾根
森林限界より上

(等高線)白馬岳 双子尾根
森林限界より上

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(写真)北岳 ボーコン沢ノ頭
森林限界より上

(等高線)北岳 ボーコン沢ノ頭
森林限界より上

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爺ヶ岳・南尾根

(写真)爺ヶ岳 南尾根
森林限界直下
いま見返すとやや雪庇よりに幕営していた。もう少し右に張るべきでした

(等高線)爺ヶ岳 南尾根
森林限界直下
いま見返すとやや雪庇よりに幕営していた。もう少し右に張るべきでした

注意 ゴミや糞尿は持ち帰ろう

ゴミはもちろんのこと、残飯や糞尿を必ず持ちかえりましょう。「残飯や糞尿は自然に帰るから…」「この地点は無雪期には誰もこないから…」という考え方はよくありません。



人の残飯を食べた熊は、人の命を狙うようになります。糞尿に含まれる大腸菌が悪さをし、雷鳥が病死しているとのデータもあります。これらは、本来自然界には存在しないものです。
携帯トイレを持参しましょう。

山に残していいのは足跡だけです。

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