夏の時期、アルプスを始めとした国立公園内には、指定箇所にしか幕営することができません。これは、テントを自由に張ってしまうと、その下の植物を痛めてしまい荒れ地となってしまうためです。一方、雪が植生を保護する積雪期には、自由にテントを張って良いとされています(ただし、もちろんゴミや残飯をきちんと持ち帰りましょう)。今回の記事では、積雪期にテント泊できる日本アルプスの11コースを紹介します。
目次
山紹介(南アルプス)
南アルプスの紹介です。南アルプスは太平洋側に位置するため、日本海側に位置する北アルプスと比べると積雪量は少なく、晴天率は高いです。一方で森林限界は高く、2,000mを越えて山頂直下まで樹林帯が続きます。長い林道歩きを強いられることも多く、そのため2泊3日の行程が必要なところが多いです。
仙丈ケ岳

仙丈ケ岳は3つのカールを有し、なだらかな稜線が美しく南アルプスの女王として知られている標高3,000m峰です。雪をまとった女王は格別の美しさです。夏の仙丈ケ岳は、標高2,032mまでバスでアクセスでき、そこから日帰りで登れる「近い」3,000m峰です。一方、冬の時期は道路が閉鎖され、2泊3日の行程がないと辿りつけない「遠い」3,000m峰と化します。この遠い行程を歩いた登山者のみが、雪をまとった美しい仙丈ケ岳を望むことができます。冬季には戸台が登山口となります。

登山適期(目安)…12月下旬~5月中旬
技術的難易度…易(ピッケルは必要だが滑落リスクは少ない)
鳳凰三山

鳳凰三山は、南アルプス南部の「地蔵岳(じぞうだけ)2,764m」「観音岳(かんのんだけ)2,841m」「薬師岳(やくしだけ)2,780m」の3山から成ります。積雪期には夜叉神の森から登るのが一般的となります。地蔵岳の直下まで進み森林限界を超えると、仙丈ケ岳~塩見岳までの南アルプス北部の主要な山を一望することができます。1泊2日の場合、地蔵岳と観音岳までしか行けないことが多く、三座に登るためには2泊3日が必要となります。
登山適期(目安)…12月下旬~5月中旬
技術的難易度…易(ピッケルは必要だが滑落リスクは少ない)

北岳

北岳は、富士山に次ぐ日本第二位の標高を誇る高峰です。夏の北岳は、標高1,520mの広河原までバスでアクセスでき、そこから1泊2日で登れる「近い」3,000m峰です。一方、冬の時期は道路が閉鎖され、2泊3日の行程がないと辿りつけない「遠い」3,000m峰と化します。そのため、静かな山を楽しむことができます。積雪期には、夜叉神峠から入山し、夏季にはあまり一般的ではない池山吊尾根を通って北岳を目指すことになります。徐々に近づいてくる北岳バットレスの眺めは圧巻です。
登山適期(目安)…12月下旬~5月中旬
技術的難易度…中(安定したピッケルワークが必要)
高(お助けロープが隠れていた場合ロープワークが必要)

塩見岳

塩見岳は、南アルプスの中央に位置する、標高3,052mの山です。山名の由来は、山頂から海(駿河湾)が見えることと、山麓で塩が取れることの2説があります。無雪期の塩見岳には、一泊二日で登ることができます。一方冬季には手前の道路が閉鎖され、体力と技術力の両者を求められる、難しい雪山と化します。二日目のコースタイム10時間の行程、天狗岩のトラバース、山頂直下の岩とアイスのミックス等が登山者の行く手を阻みます。
登山適期(目安)…12月下旬~5月中旬
技術的難易度…高(斜面のトラバースや直登時に滑落しない技術が必要)

山紹介(北アルプス)
北アルプスの紹介です。北アルプスは日本海側に位置するため、12~2月には日本海からの激しい暴風と積雪に覆われ登山日和となることは少ないです。一方で森林限界は低く、登山口から数時間歩くだけで森林限界を超えるところが多いです。スキー場が豊富なため標高の高いところに登山口があることも多く、1泊2日で登れるところも多いです。
乗鞍岳

乗鞍岳は、北アルプスの最南部に位置する標高3,026mの山です。広大な高原の中にそびえたつ独立峰です。夏季には標高2,702mの畳平までバスでアクセスでき、そこから往復3時間で比較的手軽に登ることができます。 一方、冬季は畳平までの道路が閉鎖されるため、Mt.乗鞍スキー場を利用し、リフト終点の標高2,000m地点から登ることが一般的になります。コースタイムは約8時間です。行程としては日帰りか、位ヶ原山荘やテントで一泊して登るのが一般的となります。厳冬期の乗鞍岳のレベルは、初めてピッケルを使う人にもおすすめできる「ピッケル入門雪山」としてよく紹介されています。
登山適期(目安)…12月下旬~5月上旬
技術的難易度…易(ピッケルは必要だが滑落リスクは少ない)

唐松岳

唐松岳は、北アルプス北部の後立山連峰に位置する標高2,696mの山岳です。ロープウェイを使って標高1,830mから登り始めることができるため、終始森林限界よりも上の大絶景を楽しむことができます。冬季には日本海から季節風の影響を強く受けるため、悪天候となることが多いです。コース上になだらかな箇所が多いため、幕営適地は豊富です。
登山適期(目安)…12月~5月中旬
技術的難易度…易(ピッケルは必要だが滑落リスクは少ない)

雄山(立山)

4月中旬になると立山アルペンルートの冬季封鎖が解除され、立山の主峰である雄山(標高3,003m)に標高2,420mの室堂から登れるようになります。沸き立つ噴煙、なだらかなカール、遠くに見える日本海など、大自然を感じながらの登山を楽しむことができます。一日でも登ることはできますが、雷鳥平かホテルに一泊した方が時間に余裕が持てるでしょう。立山では営業している施設が多いため、雷鳥平以外にテントを張ることは禁止です。
登山適期(目安)…4月中旬~5月下旬
技術的難易度…中(安定したピッケルワークが必要)

蝶ヶ岳

蝶ヶ岳は、北アルプスに位置する標高2,677mの山です。5~6月に雪が融けると蝶の模様があられることから、この名前が付けられました。夏の蝶ヶ岳は、手前まで車両でアクセスできるため、日帰りでも登頂が可能です。一方、冬季は道路が閉鎖されるため、その工程は長いものとなります。暗い釜トンネルを歩き、流れる梓川の脇を通り、樹林帯の斜面を登り2泊3日の行程で蝶ヶ岳を目指します。北アルプスにしては珍しい変化にとんだ登山が特徴的です。
登山適期(目安)…12月下旬~4月上旬
技術的難易度…易(ピッケルは必要だが滑落リスクは少ない)

白馬岳

北アルプスの中でも最北部に位置する白馬岳は、日本海からの風を受けやすく厳冬期に登られることは稀です。3月を過ぎると天候の穏やかな日が続きやすくなるため、登頂のチャンスが出てきます。氷結した白馬大池の真上を歩くなど、夏にはできない貴重な体験ができます。途中にある白馬乗鞍岳は雪崩やすいことで知られており、積雪直後に通過する際には北側の尾根ルートを通るなど慎重な行動を心がけるようにしましょう。
登山適期(目安)…12月~5月上旬
技術的難易度…中(安定したピッケルワークが必要)

鹿島槍ヶ岳

4月中旬を過ぎると扇沢へ至る道路の冬季閉鎖が解除され、柏原新道登山口から爺ヶ岳を経由して鹿島槍ヶ岳へ登頂可能となります。数時間登ると森林限界を超え、左手に立山や劔岳の大絶景を見ながら登ることができます。G.W.中であれば冷池(つめたいけ)山荘が営業しており、小屋泊も可能です。
登山適期(目安)…4月中旬~5月下旬
技術的難易度…易(ピッケルは必要だが滑落リスクは少ない)

五竜岳

積雪期五竜岳は、1泊2日の時間を掛けてテント泊で登る、難易度の高い山です。遠見尾根上に幕営し、翌日に五竜岳山頂を落とすのが標準的なプランです。五竜岳手前の白岳の登りは中難度、五竜山荘~五竜岳頂上は高難度です。五竜山荘~五竜岳頂上の間では、50度以上ある斜面をトラバースしたり、10メートルの雪壁を登下降する必要があります。
登山適期(目安)…3月~5月中旬
技術的難易度…高(斜面のトラバースや直登時に滑落しない技術が必要。場合によってはロープが必要)

まとめ
技術的難易度「易」となっていても、雪庇を踏み抜いたり、強風に煽られれば滑落するのでご注意ください。また、気象条件によって斜面がアイスバーンになっていたりすると、難易度は増します。
積雪直後などラッセルが必要な場合には、記載の泊数では辿り着けません。
バリエーションルートを通るアルプスについては本記事には記載していません。下記記事をご覧ください。

標高3,000m級を誇るアルプスでは夜の寒さは厳しいものとなります。防寒対策を万全にしてお過ごしください。

幕営適地の見つけ方については、下記記事をご覧ください。

今回の記事は以上になります。