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【遭難体験談】積雪期の五竜岳で標高差120mを滑落した話

今回の記事では、筆者が体験した遭難(滑落事故)の体験談と、そこから学べることを語ります。

遭難体験談

難関の五竜岳に登ることにした

時は2018年3月の週末。天気は超快晴予報です。

筆者は積雪期五竜岳に一泊二日で登ることにしました。積雪期五竜岳は難易度が高く、斜度が40度を超える斜面をトラバースしたり、10メートルの雪壁を登ってようやく山頂に辿り着く、とても難易度の高い山です。雪山の本では最難関に位置付けられます。この年の筆者は積雪期の赤岳や阿弥陀岳に登頂したり、夏季にはテントを背負って一日にコースタイム13時間を歩いたりしており、体力・技術両面にステップアップとして積雪期五竜岳に挑むのに問題ないと判断しました。

正面が五竜岳


まずは白岳を目指した

登山当日。予報に反して二日目の天気がやや悪かったため、初日に五竜岳を落とすプランとしました。この時点で初日のコースタイムは11時間です。

さすがに無理があると思ったので、時間が間に合わないようであれば五竜岳手前の白岳で引き返そうと思いながら先に進んでいきました。

午前9時過ぎにロープウェイを降りて1時間ほど歩くとガスが取れてきて、雲海の上から五竜岳や鹿島槍ヶ岳が顔を出しました。気分は超ハイテンションです。

雲海が晴れて、鹿島槍ヶ岳がその姿を現した


遠見尾根の途中の適当な箇所でテントを設営しました。さらに遠見尾根を終点まで進んだ後、全面アイスバーンと化した急斜面をピッケルを刺しながら登り、前衛峰の白岳を目指して登っていきます。

遠見尾根上にテントを設営した


遠見尾根の終点にて。
正面が白岳


白岳を登り切った時点で、時刻はすでに15時半です。徐々にペースも落ちてきて、「さすがに五竜岳は無理かな」と思っていました。

白岳を登る途中にて
斜度40度の急斜面は、全面アイスバーンと化していた


結局、勢いで五竜岳まで登った

白岳の山頂直下で、五竜岳から下ってきたソロの欧米人の方とお会いし、少し談笑しました。この時「五竜岳に登った彼がうらやましい。自分も登りたい」と思ってしまいました。

五竜山荘から、五竜岳を望む


白岳直下の五竜山荘に辿り着き、ここからいよいよ核心部の五竜岳へと登ります。まずは斜度45度のトラバースを進んでいきます。トラバース中には足元が崩れかけ、体が谷底に引きずりこまれそうにもなりましたが、アイゼンとピッケルをちゃんと刺していれば止まってくれます。

五竜岳に至る途中にて、進んできた道を振り返る。
左側は切れ落ちた崖となっている


次は山頂直下の壁を約10メートル直登します。
ようやくたどり着いた山頂では、雲海から劔岳や毛勝三山が顔を覗かせていました。これまでの緊張の糸が切れて大絶景を見られたので、感動で号泣してしまいました。

五竜岳山頂直下の赤壁を直登する


ようやくたどり着いた五竜岳山頂にて


次は下りです。同じ道を通り、まずは白岳へと戻っていきます。

同じ斜度でも登りよりも下りの方が遥かに難易度が高いです。このときはさすがに命の危険を感じ、今度は恐怖で泣きそうになりました。もしも足を滑らせることがあれば谷底に真っ逆さま。間違いなく命を落とします。しかし「泣いて視界が曇ったら本当に危ない」と感じるもう一人の自分がいて、時間を掛けながらも慎重に、無事に白岳まで降りることができました。

白岳に降りた時点で時刻は17時50分。ちょうど日没を迎えました。完全に計画ミスです。日没までにテントに帰れるように行動をすべきでした。全くもって褒められた行動ではありません。

白岳山頂にて日没を迎えた


そして事故は起きた

次はヘッドライトを付けて白岳を下っていきます。

「命からがら五竜岳を下ってきたので、ここからは安心だ」と思っていました。白岳山頂から遠見尾根に下るトレース(注:雪面についた足跡のこと)にうっかり足を掛けた瞬間、足を滑らせて体が滑ってしまいました。

そう、筆者は白岳斜面が凍り付いたアイスバーンだということを忘れていたのです。ここはクライムダウン(注:斜面の側に体を向けながら下っていくこと)をしなければならない箇所だというのを、すっかり忘れていました。滑落はあまりにも一瞬のできごとで、気が付いたらピッケルは体から離れていました。滑落のスピードはどんどん上がっていきます。

「これはまずい」と思い、本能的にアイゼンを雪面に刺しました。これが良くなかったです。アイゼンを始点にして、今度は体が回転しながら滑落していきました。自分ではもう360度どこがどこなのか全くわかりません。滑落中は苦笑いしながら「うわー、やっちゃったな。このあと自分はどうなるのかな。死ぬのかな…」などと考えていました。数十秒後、体がバウンドし、回転が止まるとともにスピードが緩みました。ここぞとばかりにピッケルを手繰り寄せて雪面に刺し、そこで滑落が止まりました。

五竜岳の地図と、筆者が通った経路を紫色の線で示す。
右上の紫色の線が直線になった部分が、筆者が滑落した箇所


体はうつぶせになった状態で雪面上に留まりました。一見、痛みはないように感じます。まずは恐る恐る両足を動かします。問題なく動くので骨折はしていません。次に両腕をゆっくりと動かします。左腕は問題なく動きます。問題は右腕でした。普段の1/4くらいしか可動しません。骨折はしていなかったのですが、ひどく打撲をしていました。しかしこの程度の怪我で済んだのは不幸中の幸いです。

(ちなみに、体に着けていた富士フイルムのカメラとレンズは無傷でした。富士フイルムのカメラとレンズは耐衝撃性もあることをこのとき証明しました)

さらにGPSで現在地を確認します。幸いなことに現在地は登山道からそれほど離れていなかったため、トラバースして登山道に復帰することにしました。

歩き始めてわかったのですが、右太ももの着衣が一か所破れて肌が露出していました。滑落中にピッケルが刺さったのだと思います。刺さったのが目じゃなくてよかったです。

遠見尾根に復帰し、暗闇の中を自分のテントを目指します。右腕に力が入らないので、両足と左腕だけで尾根上を進んでいきます。
遠見尾根では他の登山者が設営したイグルーから漏れる光が多数光っており、とても幻想的でした。もしかしたら自分はすでに死んでいて、天国を歩いているんじゃないかという気持ちになりました。

夜20時になってようやく自分のテントに辿り着きました。このときには精魂尽き果て、テントの前で5分ほど大の字になって倒れこみました。空には無数の星が瞬いていました。

夜は満点の星空が美しかった


翌朝を迎え、ようやく生きている心地を実感できた


反省点

今回の遭難(未遂)から学べることを以下に述べます。

1人で危ない雪山にはいかない

危ない雪山にいくときは、最低限二人以上でいくべきです。

私が滑落したとき、周囲には誰もいませんでした。もしも足を骨折してさらに携帯電話の電波が入らなかった場合には助けを呼ぶ手段がありません。

パーティーであれば、救助を求めることができます。

撤退する時間・場所をあらかじめ決めておく

撤退する時間・場所をあらかじめ決めておく。つまり「この時間に白岳山頂に辿り着けなかったら、五竜岳山頂をあきらめて撤退する」としておくべきでした。

今回は絶景や憧れに引きずられてずるずると五竜岳を目指した結果、途中で日没を迎えてしまい、その焦りから滑落を引き起こしてしまいました。

本当の危険は、最難関箇所を通過した後に起こる

一般的に山では、最難関の箇所では事故が起こらず、その後に事故が起こる、ということを肝に銘じておくべきです。

たとえば劔岳では難所として知られる蟹のタテバイ・ヨコバイではあまり事故が起こらず、その後での事故が多いことが知られています。

今回も最難関の五竜岳~白岳間では事故は起こらず、そこを通過した後の白岳の下りで事故を引き起こしてしまいました。

倍々ゲームで難易度を上げていかない方が良い

山を登っていると、だんだんと難易度を上げたくなります。この気持ちはわかりますが、冷静に考えるとどこかで限界がきて、事故を起こすことになります。山の目的は、難しいところを攻略することだけではないはずです。

滑落時はアイゼンを刺さない

筆者も知識としては知っていたのですが、滑落中にアイゼンで体を止めようとしてはいけません。今回のように足首をひねって、体が回転運動をはじめて収集が付かなくなります。あくまでもピッケルのみで制動するようにすべきです。ただしピッケルは初期制動が大事で、スピードが付いてしまうとほとんど制動は不可能だと言われています。



今回の記事は以上になります。


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