ナイターや、(昼間だとしても)ドーム球場で行われるプロ野球を撮影するのはとても難しいです。なぜならば、暗い環境で選手が素早く動くからです。
決定的な一瞬を綺麗に(ブレなく、ピントを合わせて)撮影する為には、最低限、性能の高い機材(カメラとレンズ)が必要です。さらに、これらの機材を使っていてもカメラの設定が正しくないと、綺麗に撮ることはできません。
選手にピントが合わない、選手がブレてしまう、写真にノイズが乗ってしまう、選手が小さい、意図した瞬間を撮れない、などです。
そこで今回の記事では、プロ野球ナイターを撮影できるカメラ機材、設定値、そして作例を紹介します。
目次
機材
プロ野球ナイター撮影に必要となる機材を、以下に紹介します。
カメラ
センサーサイズが大きく高感度耐性に優れているカメラが必要です。なぜならば、プロ野球ナイター撮影では、暗い環境で素早く動く選手を撮影するために、シャッタースピードを速くしてISO感度を高くする必要があるからです。
センサーサイズとしては、フルサイズ>APS-C>マイクロフォーサーズ の順に大きくなります。フルサイズであれば言う事無しですが、APS-Cやマイクロフォーサーズでも十分撮影は可能です。ちなみに、コンデジやスマホのセンサーサイズはマイクロフォーサーズよりもはるかに小さく、実用的ではないでしょう。
次にカメラに求められる性能は、連射性能です。すばやく動く野球選手の1瞬を捉えるためです。
今回は、富士フイルムのミラーレスカメラ・X-T3を選びました。X-T3のセンサーサイズはAPS-Cですが、このサイズの中では高感度耐性に優れています。個人的には、ISO6,400程度までであればノイズを許容できます。
連射性能はjpegのみの撮影なら1秒あたり11枚、jpeg+RAWの場合なら同10秒と、標準的な数字です。
レンズ
35mm判換算で400mm以上の望遠レンズが必要です。このレンズであれば、選手の体をアップで捉えることができます。
また、なるべくF値の小さい(=明るい)レンズがオススメです。前述の通り暗い場所でシャッタースピードを速くする必要があるため、レンズから多くの光を取り込む必要がある為です。
今回は、レンズとして富士フイルムのXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRを選びました。
このレンズは35mm判換算で152-609mmの望遠域をカバーする超望遠ズームレンズです。望遠端における解放F値は5.6となっており、一般的な超望遠ズームレンズのF6.7よりも0.5段程度明るいです。
XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRの価格(約20万円)や重量(約1.5kg)が許容できない場合には、次点としてXF70-300mm F4-5.6 R LM OIS WRをオススメします。
このレンズはXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRと比較して望遠端の焦点距離が3/4になっていますが、その一方で軽量(約500g)、比較的安い(約10万円)というメリットがあります。
SDカード
UHS-II (U3/V90)の高速書き込みができるSDカードがオススメです。
前述の通り、野球撮影では連射することで目的の1瞬を切り取ります。一般的な低速タイプのSDカードを使ってしまうと、SDカードへの書き込みに数十秒掛かってしまい、ほとんど連射ができなくなってしまいます。
SDカードの容量は128GB以上、できれば256GB以上が良いです。RAW+JPEGで連射しているとすぐにカード容量を食ってしまうためです。JPEGのみでしか撮影しないのであれば、これより小さい容量でも良いかもしれません。
レンズフード
レンズフードを取り外して撮影しましょう。レンズフードは長いため、撮影中のレンズフードが前の座席の人に当たってしまいます。
XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRの場合には、レンズフードを外しておけば前の座席の人に当たることはありませんでした。
設定
以下に、プロ野球ナイターを綺麗に(ブレなく、ピントを合わせて、目的の一瞬を)撮影するためのカメラ設定を紹介します。尚、本記事では富士フイルム製のミラーレスカメラ「X-T3」の場合の設定方法を紹介しますが、他のメーカーでも同様の設定をすることが可能です。
連射
カメラを連射モード(CH)に設定しましょう。
選手は高速で動くため、連射することで決定的な一瞬(リリースの瞬間、ヒッティングの瞬間など)を捉えます。
シャッタースピード優先
シャッタースピード優先モードにして、シャッター速度を1/500~1/1000秒に設定しましょう。打者や投手は素早く動くため、これくらいの高速シャッターを使わないと被写体ブレが発生してしまいます。
ただし、投球開始前のピッチャーやランナーなど、明らかに被写体の動きが遅い場合には1/125秒程度までシャッター速度を落とすことも可能です。これによってISO感度が下がり、ノイズのより少ない写真となります。
上限ISO感度
上限ISO感度を6,400以上に設定しましょう。
X-T3の初期設定における上限ISO感度は800に設定されています。この値では、ナイター撮影することは不可能です。
C-AF(コンティニュアス優先オートフォーカス)
C-AFモード(コンティニュアス・オートフォーカスモード)に設定しましょう。
この設定であれば、連射中に選手が動いても、カメラが自動で選手にピントを合わせ続けてくれます。
瞳AF(オートフォーカス)
瞳AFモードに設定しましょう。
撮影中に選手の顔が見えていれば、カメラが自動で選手の顔と瞳にピントを合わせてくれます。
フォーカス範囲
フォーカス範囲を画面半分程度の大きさにしましょう。
フォーカス範囲が小さすぎると選手からピントが外れ、逆に大きすぎると意図していない場所にピントが合ってしまいます。
メカシャッター(MS)
メカシャッター(MS)に設定しましょう。(初期設定ではメカシャッターになっているため、初期設定から変更していなければそのままで大丈夫です)
野球選手のように高速で動く被写体に対して電子シャッター(ES)を使ってしまうと、被写体の上と下とが歪んでしまう「ローリングシャッター歪み」が発生してしまいます。
フォーカスリミッター
フォーカスリミッターを5m~無限に設定しましょう。
この設定では5m未満の被写体にフォーカスが合わなくなる一方で、5mより遠い被写体に対してはフォーカスが合う速度が速くなります。
フリッカー低減をOFF
フリッカー低減機能をOFFにしておきましょう。(初期設定ではオフになっています)
フリッカー低減機能をONにしてしまうと、連射速度が遅くなってしまいます。さらに、ナイターの明かりは点滅していないため、フリッカー低減機能を使う必要はありません。
撮影場所
神宮球場の3塁側内野席、前から16段目の席で撮影しました。
ご覧のように、3塁ベースからそれなりに近い席です。その他には、2塁ベース、マウンド、バッターボックスも近い距離にあります。
作例
以下に作例を示します。全ての作例はjpeg撮って出しです(RAW現像していません)
ブログ掲載用に最低限のリサイズとサイズ低減処理をしています。特に断りの無い限りは、フィルムシミュレーション・クラシッククロームを使用しています。
バッター
バッターを撮影した作例を以下に示します。
以下の作例では、換算392mmの超望遠域に該当する焦点距離を使ったため、バッターをアップで撮影できています。(もちろん望遠端の609mmを使えば、上半身をアップで切り取って撮影することもできます)
1秒あたり10枚という高速で連射したため、インパクトの瞬間を撮影できています。シャッタースピードが1/1000秒と高速のため、バッターはブレていません。ISO感度は5000まで上がっていますが、カメラの高感度耐性が優れているため、ノイズはそれほど気にはなりません。
他の作例を以下に示します。ちなみに、画面上にうっすらと見えている格子状の模様は、観客席をファールボールから保護するネットです。望遠レンズを使うことで、ネットはほとんど気にならなくなります。
以下は、シャッタースピードを1/500秒まで遅くした作例です。このスピードでもバッターはかなり止まっています。
以下は、ボールをはじき返すバッターを連射した一連の写真です。1秒あたり10枚の連射だと、これくらいの間隔でバッターを撮影できます。
ピッチャー
ピッチャーを撮影した作例を以下に示します。カメラの設定は、バッター撮影時とほぼ同じです。
1/1000秒, 323mm(換算485mm), F5.4, ISO5000
1/500秒, 301mm(換算452mm), F5.2, ISO2500
1/1000秒, 360mm(換算539mm), F5.6, ISO5000
1/1000秒, 335mm(換算502mm), F5.4, ISO5000
1/1000秒, 252mm(換算378mm), F5, ISO5000
以下はグータッチをする高梨投手と大城捕手を撮影したものです。動きが遅いので、シャッタースピードを1/125秒まで下げています。この分ISO感度が下がり、ノイズを少なく撮影できています。
1/125秒, 400mm(換算609mm), F5.6, ISO500
連射すると以下のように写ります。
内野手
以下は内野手を撮影した作例です。
1/500秒, 243mm(換算365mm), F5, ISO3200
1/1000秒, 197mm(換算295mm), F5, ISO4000
1/500秒, 400mm(換算609mm), F5.6, ISO4000
以下は4-6-3の併殺プレーを完成させる吉川、坂本両選手を連射したものです。焦点距離が235mm(換算352mm)のためそこまでアップでは撮れていません。ただし、アップしすぎると選手が写真からはみ出してしまうため、少しくらい広角で撮っておくという割り切りが必要です。アップにしたければ後でトリミングをすればよいだけです。
以下は打球を処理する岡本選手。
ランナー
以下にランナーを撮影した作例を紹介します。
1/500秒, 400mm(換算609mm), F5.6, ISO5000
1/500秒, 204mm(換算306mm), F5, ISO2500
1/500秒, 261mm(換算392mm), F5, ISO2500
1/500秒, 197mm(換算295mm), F5, ISO2500
1/60秒, 227mm(換算340mm), F5, ISO320
1/60秒, 373mm(換算559mm), F5.6, ISO320
外野手
以下は、レンズの望遠端で外野手を撮影した作例です。
さすがに、内野席から外野手は遠すぎて、外野手を小さくしか撮影することはできません。
1/500秒, 400mm(換算609mm), F5.6, ISO5000
そこで、トリミングをすると良いです。以下は、上記画像を1/3程度にトリミングしたものです。画素数が約2,600万あるため、この程度のトリミングでは画質はほとんど悪化しません。
その他
高速で踊るダンサーも撮影することができます。衣装の青を鮮やかに写すために、この作例のみフィルムシミュレーションのVelviaを使っています。
ネットにフォーカスが合ってしまったときの対処法
撮影時に、手前の保護ネットにフォーカスが合ってしまうことがあります。この場合、頑張っても目的とする被写体にフォーカスが合うことはありません。
そこで対処法は以下の通りになります。奧にあるポールなどに一度フォーカスを合わせた後に、再度被写体にフォーカスを合わせるようにしましょう。こうすることでフォーカスが復帰します。
潮田さんにフォーカスが合いました。
今回の記事は以上になります。
各社の超望遠ズームレンズの紹介
各社から発売されているナイター撮影向けの超望遠レンズを紹介します。
SONY(Eマウント)
SIGMAの150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sportsは、超望遠撮影に求められる性能と機能、そしてビルドクオリティをプロフェッショナルユースにも応える高いレベルで実現した、フルサイズ対応・ミラーレスカメラ専用の超望遠ズームレンズです。Sportsラインに位置付けられ、高画質とAF合焦速度の速さが特徴です。
Nikon(Zマウント)
NikonのNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR SとZ TELECONVERTER TC-1.4xとを組み合わせることで、ニコンミラーレス用の140-560mmの焦点距離を有するレンズになります。このレンズは画面全域で色収差を効果的に抑制しており、クリアーな画像が得られます。
Nikon(Fマウント)
AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRは、ニコン一眼レフ用の超望遠ズームレンズです。EDレンズの採用で色収差を抑えた、高い光学性能をズーム全域で実現します。動体撮影に適した[SPORT]モードも搭載しています。
Canon(RFマウント)
CanonのRF100-400mm F5.6-8 IS USMとEXTENDER RF1.4xを組み合わせることで、キヤノンミラーレス用の140-560mmの焦点距離を有するレンズになります。高い描写性能と機動性を両立した、望遠撮影を手軽に楽しみたいと考える幅広いユーザー向けの超望遠レンズです。UDレンズ1枚を適切に組み合わせることで、ズーム全域で色収差を補正し、色にじみの少ない鮮明な描写性能を実現。さらに非球面レンズを効果的に配置することで、普及価格の望遠レンズながら、高解像・高コントラストに被写体を切り取ります。
Canon(EFマウント)
TamronのSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2は、手持ち撮影を可能にする、キヤノン一眼レフ用の小型軽量の超望遠ズームレンズです。高い光学性能に加えて、機能性、機動性にも優れ、野生動物や野鳥、飛行機、鉄道、モータースポーツなどの撮影に適しています。
富士フイルム(Xマウント)
富士フイルムのXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRは、35mm判換算で152mm~609mm相当の焦点距離をカバーする超望遠ズームレンズです。 ED(異常分散)レンズ5枚とスーパーEDレンズ1枚を含む14群21枚の高性能レンズにより、超望遠ズームレンズで生じやすい色収差を徹底的に低減。 飛行機やモータースポーツなどの撮影における、動きの速い被写体の撮影にも適しています。
OM SYSTEM, Panasonic(マイクロフォーサーズ)
OM SYSTEM(旧オリンパス)とPanasonicのG seriesはマイクロフォーサーズ規格を有しており、お互いのレンズを使うことができます。
PanasonicのLEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm / F4.0-6.3 ASPH. / POWER O.I.S.は、ライカの厳しい光学基準をクリアした高性能・高品質レンズです。非球面/EDレンズ、UEDレンズを各1枚、EDレンズを2枚採用し、それらを最適に配置し、インナーフォーカス方式によりズーム全域で高解像度と高コントラストの優れた描写性能を発揮します。
コスパや軽量さを重視する場合には、OM SYSTEMのM.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7 IIもおすすめです。
Panasonic, Sigma, Leica(Lマウント)
PanasonicのS series, Sigma, LeicaはLマウント規格を有しており、お互いのレンズを使うことができます。
SIGMAの150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sportsは、超望遠撮影に求められる性能と機能、そしてビルドクオリティをプロフェッショナルユースにも応える高いレベルで実現した、フルサイズ対応・ミラーレスカメラ専用の超望遠ズームレンズです。Sportsラインに位置付けられ、高画質とAF合焦速度の速さが特徴です。
まとめ
普段、標準レンズや広角レンズを使っていて表現に行き詰ってしまった方は、超望遠レンズを試してみるのもいいのではないでしょうか。今回の記事は以上になります。