いまから5年前の2016年3月下旬に、筆者が人気の少ない雪山で道迷い遭難した経験と、そこから学べることを記事にします。
目次
体験談
マイナーな3月の釈迦が岳に向かった
時は2016年3月下旬。
筆者は残雪期の釈迦が岳(高原山)に日帰りで登ろうとしていました。
釈迦が岳はあまりメジャーな山ではありません。釈迦が岳とは日光にある標高1,794mの山で、日本300名山の1つにも数えられます。位置は男体山と那須岳の中間です。人気の少ない山を開拓していたこの時期の筆者にとって、釈迦が岳はねらい目の山でした。栃木県側から登った場合のコースタイムは4時間半と比較的短めです。とはいってもこの時期はまだ日が短いため、早起きして向かうことにしました。
そして出発当日の朝。時計を見ると朝6時。見事に寝坊してしまいました。
自宅から急いで車を走らせ、登山口に付いたときには時刻は午前9時半です。ここで最初のアクシデントが発生しました。事前情報とは違い道が途中で冬季閉鎖されていたのです。往復で1時間半のコースタイムが追加され、山頂までいくとトータルで6時間となる計算です。これでは日没までに戻ってこれない可能性があるので「途中の八海山神社までいって引き返そう」と決意し、登山を開始しました。
ずるずると山頂まで行ってしまった
誰もいない雪の登山道を進んでいきます。釈迦が岳は人気が少ないうえに、分岐が多く、しかも案内標識が乏しい山です。とても道迷いしやすい環境であるため、スマホに入れたGPSアプリを頼りに進んでいきます。
登山道は石畳みになっており、徐々に両脇を枯れ木で囲まれた様子へと変わっていきました。側面の展望が開けている箇所もあり、そこからは日光連山を眺めることができました。どんどんと周囲の景色が変わり、飽きないとてもすばらしい山です。
時刻は11時過ぎ、中間地点の八海山神社にやってきました。八海山神社はガレ場の好展望地で、一画には社が祭られています。そして、山頂にも同じような社が祭られているそうです。「ここまで来たんだから山頂まで行ってもう1つの社を見てみたい。計算上、日没の30分前には車に戻れるだろう」と思い、山頂へと歩を勧めました。
道迷い・日没の恐怖
八海山神社からさらに先へ進み、釈迦が岳山頂を目指していきます。あたりの景色はさらに山深くなっていきます。そして先ほどから誰とも会いません。もともと標識が乏しい上に、登山道上の積雪量が増えてきて、ますます道が分かりにくくなってきます。
時刻は13時過ぎ、山頂直下にて単独行の人と会いました。この人が、筆者が今回の山行で出会った最初で最後の人となりました。山頂直下は急登です。登山道には補助ロープが付いていますがこれだけでは心元ないため、今回の登山で初めて12本アイゼンを装着して登っていきます。
登山開始から4時間後、時刻は13時半になりました。釈迦が岳山頂(標高1,794m)に到着しました。事前情報通り山頂には社が祭られています。そして、山頂からは日光連山を見渡すことができます。ここに来ることができた達成感は大きいです。
軽く昼食休憩を取った後、下山していきます。時間にあまり余裕はありません。このときさらなるアクシデントが発生しました。胸ポケットに入れていたスマホが落下し、崖下へと吸い込まれていったのです。このときは「落としてしまったものはしょうがない。運が良ければこの先で回収できるだろう」と考えていました。
そして下り続けること20分後、垂直の登山道に掛かっている梯子に到着しました。梯子を降りようとしたときに違和感を感じました。そう、往路では梯子など一切使っていないのです。慌てて下るあまり、道を間違えてしまったのです。
筆者は紙の地図を持っておらず、地図として使っていたスマホを失ったことで現在地を見失ってしまいました。周囲には人は皆無で、標識も乏しく、道を知るすべもありません。しかも日没までは後3時間弱しかありません。冷静になって現在地を考えます。釈迦が岳の山頂から北側へは、道は群馬県側と栃木県側の2方向にしか分岐していなかったはずです。どうやら、来た時とは反対側の群馬県側に向かって下っていると考えるのが妥当のようです。
生還
そこで来た道を20分ほど戻っていくと、見覚えのある分岐に復帰することができました。正面は山頂に続いており、左側の道は緩やかに下っています。よって、復路は左だと判断します。
この先も分岐が複数ある上に、標識は皆無です。トレースも複数あるために単純にたどることはできず、頭の中でうろ覚えに記憶している地図を頼りに下山していきます。
道を間違えて時間をロスしてしまったため、計算上は山中で日没を迎えます。筆者はヘッデンもビバーク用品も持っておらず、山中で日没を迎えることは文字通り致命的です。しかし日没後20分程度は薄暮が残るため、ギリギリ行動可能時間内に車に戻れるはずです。まだ希望は残っています。冷静に、なおかつ急ぎ足で来た道を戻っていきます。
そして何回目かの分岐に辿り着きました。正面に登山道が続いていますが、よく見ると右側にも登山道が伸びています。ここは右に進むべきだったと記憶しています。次に道を間違えると間違いなく山中の山深い箇所で日没を迎えることになります。落ち着いてもう一度考えます。ここは右です。思い切って右側に進んでいきます。
分岐から進むことさらに15分、見覚えのあるガレ場に到着しました。来た時に通った八海山神社です。先ほどの選択が合っていたということです。ほっと胸をなでおろします。
八海山神社から先も分岐が続いているため、慎重に戻っていきます。日がだいぶ傾いてきて、山の向こう側へと沈んでいきます。気温もだいぶ低くなってきました。しかし、進んでいる道は合っているはずです。
時刻は16時35分。冬季閉鎖中の大間々台駐車所へと戻ってきました。日没まであと1時間、残りのコースタイムは35分です。途中急いだこともありコースタイムを巻けたようです。ここまで来てようやく生きた心地がしてきました。
ここまでくればもう安心です。大間々台駐車場から登山口へと続く林道を下っていきます。林道には、高度の低くなった太陽によって自分自身の長い影が出来ています。当然、この時刻にいるべき場所ではありません。
時刻は18時15分。日没の30分前に、登山口に無事に帰還することができました。
反省
今回の山行における反省点と、そこから学べることを以下に記載します。
ストラップでスマホの落下対策をしておく
スマホが落下しないように、ストラップで服に固定しておくべきでした。
登山中にスマホを無くす経験をしている人はとても多く、それだけ頻繁に起きる事故ということです。
紙の地図を持つ
スマホだけではなく、紙の地図も持っていくべきでした。
スマホの落下防止をしたとしても、電池切れ、故障、低温による動作不良が起こる可能性があるからです。
ヘッドライトを用意する
日帰り登山とは言えども、ヘッドライトを用意するべきでした。
今回のように日が短い時期に出発が遅れるのであればなおさらです。しかもヘッドライトの重さはわずか200g程度しかありません。この程度の重量で安全性を担保できるのであれば軽いものです。
無理して山頂にいかないという強い意志を持つ
時間が無い場合には、無理して山頂にいかないという強い意志を持つことが必要です。
人間は、惰性で先に進みたくなってしまうものです。その先に待つのは遭難かもしれません。
ビバークキットを持つ
ビバークキットを持てば言う事はありません。
今回の記事は以上になります。
コメント
無事下山できて良かったですね。自分も妻と無理な行程を計画し、山中で日没。完全な暗闇の中、幸いにヘッドランプを持っていて幸いでした。しかし、その後も間違った沢に入り込んでしまい、絶望感に襲われたことがあります。その時は、パニックになりかけましたが、落ち着こう、落ち着こうと言い聞かせ、妻と話し合ってまず来た道を戻ろうとなり、しばらく戻り続けたところ幸いに正しい道に戻れました。地図、ランプとスマホ、ビバーク用具、暖かい着衣は決定的に大切だと痛感しました。
相澤さん
やはり、道に迷ったときは元の道に戻るのが大切だということですね。
これからも安全に気を付けて、お互い山を楽しみましょう。